N@oと七人の木村剛サマ
ここはある国のはずれ。海を隔てた小さな島です。 緑色の海面とどんよりとした空、チャコールグレーの大地が 芸術的なコントラストを生み出す美しい島です。 商いは盛んです。学校もあります。病院も警察も裁判所も証券取引所も テレビ局や居酒屋だってきちんとあります。 大人は知恵を絞り、情報を収集して、仕事に取り組み、 たまには羽目をはずして楽しく過ごしています。 子供は好奇心を持って遊びと勉強とスポーツ、お気に入りのことに集中し、 たまにはサボって将来の夢を思い描いたりしています。 悪意や悪事や犯罪はなくなりません。 それでも多くの島民はみんなで幸せになれる方法をいつも考え、 話し合い、選択し、決断し、実行してきました。 ここは、明日に向って毎日一歩ずつ進んでいく人々が住む島なのです。 しかし、数年前までは、こうではありませんでした。 長い長い間、疑惑と不信感、絶望と不公平感、隠蔽と閉塞感 ・・・マイナスエネルギーの大気が島全体を覆い、 大人からも子供からも笑顔を奪っていたのです。 「もうこの島はおしまいだ。本土の国からも見放され滅んでゆくだけだ。」 ほとんどの島民がいろいろなことを諦めかけた時、一人の女性が呟いたのです。 「でも、この島が好き。好きな人ばかりではないけれど、大切な人がいっぱいいる。 そして何より、これから先世界全部が終わったとしても、『私』は今生きているのだから。」 N@o という名のその女性はこの島で生まれ、この島で育ち、 けれどひっそりと暮らしていたので、誰も彼女の存在を知りませんでした。 彼女が決意の言葉を発した後、突然、海岸の方から漁師が叫びました。 ―誰か、手伝ってくれ。東の海岸に『人』が打ち上げられているーっ!― 壊れかけた小船には倒れた『人』が幾人か乗っていました。 心ある島民は、協力してその『人』たちを助け出すと、 応急処置を施し、すぐに設備の整った病院に運びました。 運び込まれた遭難者は、男性ばかり七人。 たいそう衰弱していたので、目を覚ますには何日もかかりそうでした。 看病を買って出たのは、N@oです。彼女は医師でも看護士でもありませんでしたが、 海岸に横たわる彼らを一目見たとき、なぜか神様の思し召しを感じたのです。 島の人々もみな不思議な想いを抱きつつ、彼らの回復を祈りました。 七人の男性は、全員同じ顔をしていたのです。 ②につづく
by on-nao
| 2004-08-01 16:57
| きむらさん
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